持続可能な未来を切り拓くAstemoのレアアースフリーモーター

昨今において、電気自動車(EV)用モーターの大半にレアアース(希土類元素:存在量が少ないなどの理由で希少とされる元素)が使用されています。一方で、コストの変動、供給国の偏在、さらには採掘時の環境負荷といった課題をもたらすことも事実です。
世界が大きな変化の局面にある中、電動化が急速に進展し、もはや性能や効率性だけではく、レジリエンスが極めて重要な経営課題となっています。

レアアース依存度の高まり

EV用モーターには、主に永久磁石同期モーター(PMSM)、誘導モーター、巻線界磁同期モーターの3種類があり、そのうちレアアース磁石を使用するPMSMは2024年時点で市場の80%以上*を占めています。その市場シェアは拡大傾向にあり、同年のレアアース需要が34%増加しました。
需要拡大に伴い、構造的な供給リスクも顕在化しています。2024年から2040年にかけて、電動車に用いられるレアアースの90%以上が特定の精製国からの供給と見込まれており、モーター製造における特定国への依存度の高さが課題となっています。
これはもはや理論上の懸念ではありません。顧客を含めたサプライチェーン全体がレアアース供給問題について問われています。
*Benchmark Mineral Intelligenceによる

供給以前の課題:サステナビリティへの対応

レアアースの採掘・精製には、排水や大気汚染、放射性物質といった環境負荷が伴うことも指摘されています。規制によってそういった環境負担をある程度抑制することが可能であるものの、レアアースフリー技術は、より持続可能な解決策となり得ます。

新たなアプローチ:レアアース依存からの脱却

Astemoは、持続可能な社会の実現に向けた長期ビジョンの一環として、レアアースを使用しないモーターの開発に取り組んでいます。
具体的には、2種類の異なる同期リラクタンスモーターが開発されています。主駆動には(酸化鉄を主成分とする)フェライト磁石を使用した磁石補助同期リラクタンスモーターを、副駆動にはマグネットを一切使用しない同期リラクタンスモーターを使用しています。

後輪を主駆動、前輪を補助駆動とするデュアルeアクスル構成

レアアースに依存しない性能の実現

これらのモーターは、磁気抵抗(リラクタンス)の差を利用して回転力を生み出します。多層フラックス構造によりネオジム磁石モーターと同等の出力が得られます。
主駆動用モーターは最大180kW、副駆動用モーターは必要なときだけ作動し、最大135kWの出力をアシストします。これにより、EVの駆動システム全体の消費電力を抑えることができ、効率向上に貢献します。

左:ステーター(赤)と永久フェライト磁石を備えた鉄心(青)から構成されるメイン駆動、右:磁石の代わりに空隙を持つ補助駆動モーター

外周をローターとする構成における磁力の発生イメージ

性能トレードオフの再考

主駆動システムでは大きな出力が求められるため、強い磁力が不可欠です。一方、副駆動システムでは、磁石を使用するとモーターが作動していない間でも不要な磁力が発生し、エネルギー損失を招く可能性があります。その点で、副駆動システムにおいては磁石レスモーターが適しています。
フェライト磁石モーターは、ネオジム磁石モーターと比べると3倍の大きさになるのですが、磁力の差を考慮すれば大きな技術的進展と言えます。これらは直接競合する技術ではなく、高性能ガソリンとレギュラーガソリンのように用途に応じた補完関係にあります。
また、フェライト材料は資源として豊富で採掘負荷も低く、コスト面でも優位性を有しています。


従来型レアアースモーターと同期リラクタンスモーター(SynRM)の比較

冷却課題を解決

技術的な課題の一つが熱管理です。ローターコア内に磁極を形成するには高電流が必要となり、ステーターのコイル温度を上昇させます。Astemoはコイルをオイルに浸漬する冷却構造を開発し、効率的に熱を除去できるのが特徴です。
本構造では電磁力をステーター側に集中させ、ローター側での発熱を抑制することでエネルギー損失を低減しています。フェライト磁石モーターについても、渦電流を抑制する設計とすることで熱効率を高めています。
その結果、本設計は冷却効率の観点から、誘導モーターや巻線界磁同期モーターを上回る性能を実現できました。

多面的なソリューション

ネオジム磁石モーターは今後もAstemoのポートフォリオにおいて重要な役割を担い続けます。一方で、レアアースフリー技術は、電動化戦略における新たな選択肢として、レジリエンスとサステナビリティを強化します。
内燃機関から電動化へのシフトにおいて、培ってきた熱管理・放熱技術も引き続き重要な競争力となります。

将来を見据えて

2030年の製品化を見据え、レアアースフリーモーターは既存技術を置き換えるものではなく、戦略的に補完する技術として位置づけられています。
多様なモーター技術の選択肢を拡充することで、供給リスクの低減、コスト安定性の向上を実現し、電動化におけるより持続可能な未来の実現に貢献していきます。

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